有機栽培とは

有機栽培って聞いたことはあるけど、実際はどんな農業なのか。

有機栽培とは(2)

前回は法律と歴史的側面から有機農業を見てきましたが、今回は有機栽培を実践している「生産者のタイプ」について、分析してみたいと思います。

有機生産者のタイプ

生産者のタイプ分け

早速ですが右図をご覧下さい。

私を含め、私が過去に接してきたことのある有機栽培の生産者を3つのカテゴリーに分けてみました。円の大きさや微妙な重なり具合はあまり突っ込まないで下さいね(-_-;)。

趣味
家庭菜園など趣味で有機栽培をされている方。自分や家族の健康を考え、農薬や化学肥料を使用しないで野菜を作っておられる方などです。
思想・哲学派
これは環境問題など、「私」よりも「公」のことに重点を置いて有機栽培を行っている方たちです。前述した自然農法の考え方にも近いものがあるかもしれません。環境に優しい有機農業を実践することで、結果的に安全安心な作物を手に入れることができるという考え方をされます。
商業
これは農業経営を第一に考える生産者の方々です。商業に重点を置くことは決して悪いことではありません。有機農業とは言っても、食べていかなければなりませんから。

有機JASの立ち位置

有機JASの位置

今度は有機JASの概念というか、立ち位置を図に示してみたいと思います。

有機JASの認定を受けるためには時間も経費もかかりますから、趣味で有機JASの認定を受ける方はまずいないでしょう。おられたとしても、極々少数だと、勝手に決めつけさせていただきます。また、わざわざ時間と経費をかけてまで有機JASを取る以上、商業的な意味合いがゼロということはあり得ないと思います(これも勝手に決めつけてしまいますが)。

以上の点を考慮して、有機JASの位置を書き込むと、図のようになります。

有機JAS=有機農業ではない

図を見て分かるように、有機JASは有機農業全体の一部ではありますが、有機農業そのものではありません。ですので、前回紹介した有機JASのガイドラインがイコール「有機農業とは何か?」の答えとはならないのです。

実際、有機JASの認定を受けていない有機栽培の生産者の数の方が多いと感じますし、有機JASのガイドラインよりもよほど厳しい自己規制を持って栽培されている方も多いです。このことは国も認識しているようで、現在、有機JASから「もれている」有機栽培生産者の数を、地道な聞き込み調査によって把握しようとする動きがあります。

また、有機農業推進法という法律が施行されて、有機JAS認定者以外の有機栽培生産者も含めて有機栽培を促進させようという動きもあるようですが、こちらはまだ効果が実感できるほどでは無い様な気がします。

有機JASの生産者も一様ではない

もうひとつ注視すべき点は、(無農薬・無化学肥料栽培を含む)環境に配慮した持続的な農業として有機農業を行っていて、有機JASはあくまでも販売の一(いち)手段として取得している生産者と、商売上の利点のみのために有機JASを取得している生産者に分かれるということです。

そしてこの生産者の意識の差、有機JASに対する考え方の違いは、消費者が有機栽培を誤解してしまう一因となる、とても重要なポイントです。

有機栽培と無農薬栽培

※厳密には無農薬という表現は適切ではありませんが、この点については別のコラムで解説するとして、今回は便宜上、「無農薬」という言い方をさせていただきます。

ところで、私が有機栽培をしていますというと、消費者の方から「有機栽培と無農薬栽培はどう違うのですか?」との質問を受けることがあります。答えは、

有機栽培≠無農薬栽培(有機栽培と無農薬栽培は必ずしもイコールではない)

なのですが、実はこの質問こそ、消費者の求めている「有機栽培とは何か?」だと言えるのではないでしょうか。

消費者が望む有機栽培とは

実は消費者の方が有機栽培に対して最も期待しているのは「無農薬か否か」ではないかと思います。「安心・安全」とか言ったりしますよね。

もしくは「味」という回答もあるかもしれませんが、味というのは判断基準が不明瞭な点から第一の理由とはなり得ないと思います。有機野菜の「美味しさ」についても、詳細は別のコラムで触れてみたいと思います。

ともかく、これからは「消費者は無農薬栽培であるからこそ、あえて有機栽培の野菜を選択する」という仮定に基づいて話しを進めていきたいと思います。

有機JAS栽培下で農薬を使用する場合

有機JASの認定を受けている場合でも、「やむを得ない場合」には農薬を使用しても良いことになっています。

「やむを得ない場合」とは、例えば周囲の圃場で特定の病気や害虫が大量に発生していて、このままでは明らかに自分の畑にも重大な被害が出ると予測される場合です。

もちろん、農薬を散布する場合は、普通栽培と同じ規則を守らなければなりません。規則とは農作物別に決まっている農薬しか撒いてはならないことと、農薬をまくことのできる回数です。それから有機JASでは、使用可能な農薬の数も限定されています。

それでも農薬は使わない

ただ、私を含め、私の知っている多くの有機生産者の方々は、「やむを得ない場合」であっても農薬を使用しません。そもそも「やむを得ない場合」という概念すら無いかもしれません。

では、「やむを得ない場合」に農薬を散布する生産者とそうでない生産者の違いは何でしょうか。

農薬使用の境界線

ここで、先ほどの図に線引きをしてみたいと思います。もっともこれは有機JASに限ったことではないので、線は図の様な感じで引っ張ります。

境界線の左側に属する生産者は多分、いかなる場合であっても、農薬を使用することはないと思います。

なぜ農薬を使わないのか

境界線の右側と左側にいる生産者は、同じ有機栽培の生産者ですが、まったく別の種類の農業を行っています。それが、なぜ左側に属する生産者が農薬を使わないかという問いの答です。

左側にいる生産者が見ているものは栽培環境であり、右側に属する生産者が見ているのは農作物(商品)なのです。

環境を見ている生産者は、極端な話し、一作が全滅しても(栽培)環境を守ることを優先するので農薬は使用しない。一方、商品としての農作物を見ている右側の生産者は、商品を守るために農薬を散布することを躊躇することはないでしょう。

生産者の特徴

これも私の経験に基づく決めつけかもしれませんが、両者の栽培方法には違いがあるように感じます。

左側に属する生産者は少量多品目での栽培、右側に属する生産者は単品目か若しくは少品目での栽培を行う傾向が多いという点です。

※単品目栽培をしている有機生産者が必ずしも右側に属するという意味ではありません。念のため。

少量多品目で栽培をしていると、リスク分散ができるのです。具体的に言うと、仮にキャベツが全滅しても、レタスは無事かもしれません。ところがキャベツだけを栽培している場合、キャベツが全滅したら一巻の終わりです。

また、少量多品目だと、農薬を使用することが大変なのです。というのは、散布可能な農薬の種類は作物ごとに決まっているからです。キャベツの隣にイチゴが植えてある場合、キャベツに農薬散布しようと思ったら、イチゴに農薬がかからないように気を使います。もしもイチゴにキャベツ用に散布した農薬がかかって、その農薬がイチゴに散布してはいけないものだった場合、そのイチゴは有機どころか普通栽培の農産物としても出荷することができなくなってしまうからです。このように、多品目だと農薬の散布がすごく手間のかかる仕事になります。というか、農薬の使用を前提とした場合、少量多品目栽培はしない方が賢明なのです。

一方、商売としての有機栽培を重要視している生産者の方の考え方はどうでしょうか。有機栽培はブランド名の様なもので、有機JASのガイドラインが遵守されている範囲内で可能な限り商品を守ろうという意識が働いてしまうのではないでしょうか。

ただし、私の中ではいくらガイドラインから逸脱してないとはいえ、農薬を散布してしまうと減農薬(特別栽培)と有機栽培の境界線も曖昧になってしまうような気がします。もっとも問題なのは、農薬を散布した有機栽培農産物と言うのは消費者の望む有機栽培農産物と決定的に乖離してしまうことではないでしょうか。

消費者と生産者のコミュニケーション

上記のように、ある程度の特徴づけはできますが、結局は生産者と消費者が直接対話しない限り、消費者の求めている有機栽培と生産者の行っている有機栽培のマッチングは難しいということになります。消費者にとっての有機栽培とは消費者自身が有機栽培に何を求めているのか、そしてその求めている有機栽培を実践している生産者に出会えるか、とうことがポイントになるのではないでしょうか。

またまた長くなりましたので、つづきは次回に。

2010.12.01