有機農業とは

有機農業って聞いたことはあるけど、実際はどんな農業なのか。

有機栽培とは

「有機栽培とは何か?」という問いに一言(ひとこと)で答えるとするならば、

生産者の数だけ答えがある

というのが適切ではないかと思います。それだけ、有機栽培とは一言で定義することの難しい言葉だと感じています。

ですが、この一言で終わらせてしまうのは、あまりにも不親切なので、今からダラダラと説明していきたいと思います。まず、有機栽培とは大きく2つに分類できるます。それは、

  • 狭義の有機栽培(法律で規定された有機栽培)
  • 広義の有機栽培

です。では、この2つについて説明します。

狭義の有機栽培

インターネットで「有機農業の定義」を検索して出てくる有機栽培の説明としては多くの場合、この狭義の有機栽培の説明がされているようです。2000(平成12)年に施行された改正JAS法という法律によって、現在『有機』と表示して販売できる農産物は農林水産省の定めた有機農産物のJAS規格に従って栽培された作物であり、国の認定した第三者機関によって審査・認定された生産者(個人・法人)のみが有機JASマークを貼った場合のみということになっています。

※JASとはJapanese Agricultural Standardの略で、日本語では「日本農林規格」と言います。1950(昭和25)年に公布された農林水畜産物およびその加工品の品質保証規格です。有機JASの他にも特定JAS、流通JASなどの規格があります。

で、有機農産物のJAS規格で定義されている農産物の条件とは抜粋すると以下の様になります。

  • 種を播く(苗を植える)前に最低2年間、化学合成農薬や化学合成肥料を投入していない田畑で栽培された農産物
  • 栽培期間中も禁止されている化学合成農薬及び化学肥料を使用せずに生産された農産物
  • 遺伝子組み換え技術を使用しないで栽培された農産物

種子消毒についてなど、まだまだ細かい規程があるのですが、上の3点は特に有機JASの特徴として引用される項目です。

ですが、上記はあくまでも有機JASという有機栽培のひとつの範疇についてのガイドラインであり、有機栽培全体の一部の定義にすぎません。

広義の有機栽培

広い意味での有機栽培については、有機JASのような明確なガイドラインが無いため、「こうしたら有機栽培だ」あるいは「こうしたら有機栽培ではない」と断定することは困難です。ですが、いろいろな角度から有機栽培を見ていくと、なんとなくですが、その輪郭が見えてきます。

まずは有機農業が誕生した歴史的な経緯から見ていきましょう。

有機農法の誕生?

農業の歴史

伝承農法

まず今から3000年以上前の縄文時代末期から弥生時代から始まり、現在まで脈々と受け継がれてきた「伝承農法」というものがあります。知識も道具も技術も、始めは原始的な、未熟なものだったのでしょうが、長い歴史の間には様々な栽培技術が蓄積され、速度的にはゆっくりとでも着実に進歩してきた農業のカタチです(※ちなみに伝承農法とういう言葉は木嶋さんがよく使われておられる言葉ですが、便宜上、勝手に拝借させていただきました)。

近代農法

次に、明治時代中期以降、今からおよそ110年前から急速に発展してきたのが「近代農法」です。今現在、普通に行われている化学合成農薬と化学合成肥料によって作物を育てる農業のカタチです。

自然農法

その後、今から約75年前の昭和10(1935)年に「自然農法」というものが提唱されます。これは化学農薬と化学肥料に対する強いアンチテーゼとして誕生した、反近代農法的意味合いの強い農業のカタチです。この農法の特徴は提唱された人物によって不耕起(耕さない)だったり、無施肥(肥料を一切やらない)だったりと、かなり厳格な規制があります。決して放任栽培ではないのですが、なかなか一般の人には受け入れにくく、また栽培技術もそれなりに必要で、環境によってはまともに作物が育つようになるまでにかなりの期間を要することから、一部の人のみに受け継がれてきただけでした。

有機農法

そして、自然農法の提唱から約35年後の昭和46(1971)年に日本有機農業研究会(JOAA)が発足して、このとき初めて「有機農業」という言葉が使われました。

JOAAは1988年に有機農産物の定義を定めました。

有機農産物とは、生産から消費までの過程を通じて化学肥料、農薬等の人工的な化学物質や生物薬剤、放射性物質、遺伝子組換え種子および生産物等をまったく使用せず、その地域の資源を出来るだけ活用し、自然が本来有する生産力を尊重した方法で生産されたものをいう

なぜ、研究会の立ち上げの時点ではなく、発足から20年近く経った時点で定義づけされたかというと、当時の社会情勢が影響しているからです。1986年のチェルノブイリ原発事故後に消費者の農作物の安全性に対する関心が高まり、有機農産物への需要が増えました。その時、高まる需要に便乗した悪徳業者が「まがいもの」の有機農産物を流通させたことで、消費者の間に有機農産物の不信感が広がりました。当時は法的な整備がなかったため、研究会がこのような定義を提唱する位が精一杯の抵抗でした。

この定義は現在顧みても非常に簡潔に有機農産物の有り様を表していると感じます(※遺伝子組み換え種子ーについては1998年に追加されました)。本来なら、この定義を引き合いに出して、有機農産物とはこうです、と言ってしまえば楽なのですが…

有機JASが有機農産物の定義を曖昧なものとした

皮肉なことに、研究会が有機農産物の定義を定めてから約10年後にようやく法整備がなされ、有機JAS規格が施行されたのですが、この法律で定められたガイドラインが、現在、有機農産物の定義を曖昧にしてしまった元凶なのです。

有機JASの施行前であれば、化学肥料、農薬、遺伝子組み換え種苗の使用の有無を境界線にして有機農産物か否かの線引きが可能でしたが、有機JASでは非常時の農薬使用が認められたため、この線引きができなくなってしまったのです。

そもそも有機JASの法制化は当時の国際規格への迎合というウネリの中で、足早に制定された感が強く、十分な検討がなされないまま、見切り発車の様な状態でスタートしたような感じがします。「とにかく早期の法整備を!」みたいな状況だったので、そこに何らかの圧力に漬け込まれてしまうスキができたのではないでしょうか。

「無農薬にこだわっていたら、十分な量の有機農産物がかくほできないじゃないか!」みたいな(-_-;;;)

商業的な妥協をしてしまったがために生じたこの曖昧さ。これが、正直に無農薬・無化学肥料で有機栽培をしている生産者と、無農薬野菜を求める消費者の間に混乱と疑念を生む温床となり、悪徳生産者につけ入る隙を与え、正に「正直者が馬鹿を見る」結果に繋がってしまったのではないでしょうか。←飛躍し過ぎでしょうか?

自然農法と有機農法の違い

ところで、多くの消費者には有機農法と自然農法の違いはおそらく理解されていないでしょう。両者は同じ様なものだと思われているはずです。ですが、もし有機農法が自然農法と同じものであるならば、なぜ自然農法の提唱から35年以上たった時点で違う名称を用いて再定義する必要があったのでしょうか。

有機農業は自然農法の再定義ではありません。日本有機農業研究会の提唱した有機農業と自然農法とは似てはいますが、異なる要素があります。それはこの時に提唱された有機農業には、生産者と消費者の提携という経済活動が含まれているということです。

自然農法は農薬や化学肥料を使用しない生産活動の方へのこだわりが強かったため、商的なことはあまり語られませんでした。もちろん、自然農法が提唱された時代は流通なども現在のシステムとは全然違っていて、生産者と消費者の距離が近かったことも考慮すべきだと思います。

長くなってしまったので、つづきは次回に。

2010.11.24