有機JAS認定制度

現在日本で唯一有機栽培であることを公的に認定する有機JAS

有機JAS認定制度

2010年10月に有機JASの認定を受けました。

有機JASの規格についての詳細は農林水産省のウェブサイト・有機食品の検査認証制度のページを参照していただくとして、私と有機JASについて書きたいと思います。

私が有機JASの認定を受けた理由

有機JASの認定を受けるためには書類の作成、栽培記録や出荷記録などをつける手間、認定費用などの経済的負担が発生します。また、有機JASは制度的な欠点が多く存在することを指摘されています。

それでも私が認定を受けたのは次の2つの理由からです。

  • 第三者から認定を受けることの重要性
  • 私のことを全く知らない消費者が購入するときの判断基準となる

それぞれの理由について説明します。

第三者から認定を受けることの重要性

認定を受けるためには年に最低1回は国の認可を受けた認定機関による書類審査、圃場審査などをパスする必要があります。当然ですが、認定を受ける生産者はJAS規格という同一の基準に沿って審査されます(実際の現場では多少のバラツキがあることは事実ですが)。

いくら欠点はあっても、現在のところ、日本全国で統一されたガイドラインがあって、第三者からの認定を受けることのできる規格は有機JASのみです。

特別栽培は「都道府県ごとに基準値が異なる」「厳密な意味での第三者からの認定を受ける必要が無い」という致命的な欠点があります(詳しくは「有機栽培と特別栽培」で述べます)。

また、認定を受けずに有機栽培をおこなっている生産者も多数存在します。その中には有機JASの規格よりも遥かに厳格な基準で栽培されている方々もあることは知っています。ですが、逆に有機JASの基準では不適合とされる、化学合成農薬よりも危険かもしれないもの(市販の木酢液など)を使用している生産者がいることも事実です。

どちらにしても、(第三)公的機関からの認定を受けていない以上は「自称」有機栽培であることには代わりありません。思い入れの強い生産者ほど排他的となり、自分の考え方が正しいと信じて疑わない、一元的な考え方に陥る傾向が強いと思います(これは有機栽培に限ったことではありませんが)。ですが、私が敢えて公的機関からの認定を持ち出すのは、第三者の客観的な意見に耳を傾けるということも、時には必要ではないかと考えるからです。

私は別に自称有機栽培が悪いというつもりはありません。むしろ、有機JASの認定など無くとも、生産者と消費者が信頼関係の上で農産物のやり取りをおこなっていることの方が重要ですし、それが理想の形だと思っています。

実際、私の実践している有機栽培を理解し、信頼していただいている消費者の方に対しては有機JASの認定は不要です。ですが…

私のことを全く知らない消費者が購入するときの判断基準となる

有機JASの認定を受けている農産物であるということは、有機JASのガイドラインを既に熟知している購入者にとって、購入基準のバロメータとしての役割を果たしてくれます。もしくは、有機JASのガイドラインを読めば、少なくとも農産物がどのような基準をクリアして生産されているものかが分かります。

もっとも、これこそが有機JASの存在意義でもあるので当然なことなのですが、私の生産する有機農産物をより多くの方にアピールするためのツールとして、現在のところは必要なものだと考えています。

日本が法治国家である限り、欠点がある法律であっても従わざるをえません。ですので、「有機栽培農産物」として公言して売るために有機JASの認定を受けている。これが2番目の理由です。

有機JASの問題点

ガイドラインの幅が大きすぎる

現行の有機JASは各方面(-_-;)に対する配慮と妥協の産物である面が見られ、そのせいで規格そのものがぼやけてしまっています。具体的に言うと、「有機栽培とは」のコラムと重複しますが、有機無農薬も有機減農薬もどちらも有機JASになってしまっていて、消費者から違いが見えにくい点です。

この二者の違いは大きいので、何らかのカタチで区別する必要があるかと考えます(私なりの回答は後述します)。

根本的な問題と理想の形

以下は実現不可能だと承知で書いてみます。

そもそも有機JASの認定制度はそれ自体が矛盾した存在だと思います。なぜかと言うと、有機JASの認定を受けるための審査とは無いことを証明するための審査だからです。具体的に言えば、

  • 使用禁止資材(化学合成農薬や化学合成肥料など)を使用していない
  • 遺伝子組み換え種苗を使用していない
  • 慣行農産物など他の農産物と混ざっていない

など、すべて「ない」ことを審査されます。ですが、無いことを証明するというのは実は非常に難しいことです。というのは厳格に無いことを証明するためには有ることを全て否定する必要が有るからです。例えば、

  • 禁止されている化学合成農薬を使用していない

ことを証明するためには、極論を言えば審査官が種まきから栽培、出荷されるまで四六時中監視をして(なんならビデオ撮影でもして)本当に使用していないこと証明する必要が有ります。あるいは、生産された農産物の成分分析をして、存在する全ての使用禁止農薬が使用されていないことを証明する必要が有ります(※この方法では残留成分しか検出できないのかもしれませんが)。いずれにしても、時間・労力・金銭面から実現不可能なことです。

では、どうすれば良いのでしょうか?

残念なことに、今となってはこちらも実現不可能なことなのですが、理想を言えば無いことを証明するシステムではなく、有ることを証明するシステムに切り替えるべきだと考えます。つまり、有機農業者だけではなく、慣行栽培を行っている生産者も含め、全て使用した農薬や肥料を申告して表示するようにすれば良いのではないでしょうか。

農薬や肥料の販売業者も、どの生産者に何をどれくらいの量売ったかを申告して、監視機関は両方の整合性がとれるように抜き打ち検査を行うようにするとか。多くの肥料や農薬を使用する生産者ほど手間が増えるようなシステムであれば、自然と使用する農薬や肥料も本当に必要なものだけに絞ろうとする動きになるのではないでしょうか。

消費者も、どんな肥料や農薬が使用されているかが表示されていれば、「有機」や「特別栽培」などの抽象的な表示よりも、購入する時の明確な目安になると思います。農薬の名前なんかを表示すれば誰も買わなくなるということを言うような人もいますが、現在も食品添加物の表示がしてあっても、そんなの見もせずに購入する消費者の方が圧倒的に多いと思われるので、使用農薬名を表示したからといって全く売れなくなるなどというのは極論でしょう。

現実的な解?

上記では実現性の無い理想のカタチを述べましたが、実際、現在有機JASが抱える問題点をどのように解決していくべきか、私なりの解答をしてみたいと思います。

特別栽培制度を廃止して、有機JASに統一し、有機JASに階級を設ける

いろいろな規格があると、消費者を混乱させるだけです。現在でも農薬を散布してしまえば、有機JASと特別栽培(減農薬)の境界が曖昧になってしまっています。自治体ごとに基準の違う制度があることも問題です。というわけで、特別栽培制度を止めて有機JASに以下の様な階級制度を設定したらどうでしょうか。

有機JAS・ゴールド
有機JASの認定を受けてから10年間、農薬の散布もすること無く、種苗も全て自家採種か無消毒種子のみを使用して栽培されている生産者に与えられる
有機JAS・シルバー
現在の有機JAS基準に相当する。ただし、一度でも農薬散布を行った場合は「ブロンズ」に格下げされる
有機JAS・ブロンズ
現在の減農薬栽培に相当。あくまでも有機なので減化学肥料は対象外。

このようにランクづけすることによって基準を明確にしておけば、例えば無農薬野菜を購入基準にしている消費者はシルバー以上を選べば良いし、有機栽培農産物もランクによって価格の格差がつけやすいし、生産者も上のランクを目指して技術レベルの向上を目指すことができるし、と利点が多いと考えます。

認定機関は都道府県が担当する

現在、自治体が認定機関となっているのは私の住んでいる鳥取県を含めて3県と2町の合わせて5つ。自治体なので管轄する行政区に住所のある生産者のみが対象となります。

鳥取県が認定機関で良かったと思う最も大きな理由は認定料が安いことです。通常民間のNPOが行う際の認定料は値段が高く、これが有機JASの生産者が増えない一因となっていることも事実です。また、認定審査は毎年のことなので、料金もそうですが、手続きも今より簡素化する方が良いかと思います。

とか、考えだしたら次から次へと切りがないので、この辺りで今回は止めにしておきます。まとまりのない最後で申し訳ありません。

2011.01.29