無農薬と減農薬

「無農薬」と表示して農産物を販売することは違法。なぜか?

無農薬と減農薬

消費者の皆さんが有機栽培農産物に望むものは「無農薬」ではないでしょうか。

しかし、現在は「無農薬」と表示して農産物を販売することは法律で禁止されています。有機JASの販売表示に関する注意事項でも「無農薬」と表示することは禁止になっていますので、有機JASの認定を受けていても、「無農薬」との表示はできません。

誤解を与える無農薬

なぜ「無農薬」と表示することが禁止されてしまったのでしょうか?

それは「無農薬と表示すると消費者がその農産物の残留農薬がゼロであると誤解してしまう可能性があるから」です。これを優良誤認といいます。

「無農薬栽培」というのは決して「残留農薬が無い」ことを意味しているわけではありません。「無農薬栽培」というのは、栽培期間中に農薬を使わずに作られた作物を意味しているわけで、無農薬栽培で栽培された作物からも残留農薬が検出される可能性は十分にあるのです。

ではなぜ無農薬栽培された作物から農薬が検出されるのでしょうか。

その理由は大きく分けて2つあります。

  1. 周辺(あるいは遠方)から飛来する農薬が混入する場合
  2. 無農薬栽培される以前にその農地で使用された農薬が残っていて、作物がその残った農薬を吸収してしまった場合

もちろん、「無農薬」と表示しておいて故意に農薬を使用している...いわゆる偽装もあるかもしれませんが、そんなことは論外ですのでここでは考えないこととします。

農薬のドリフトなど

まず1番目の理由についてですが、隣接する農地で農薬が使用されている場合、いくら自分の所だけ無農薬で作っていても、風向きによっては隣で撒かれた農薬が飛んでくる可能性は否定できません。また、川下の農地の場合、川上で散布された農薬が水にとけ込んで、潅水する水を経由して農薬が混入される可能性もあります。有機JASの認定でも、この点については検査があって、周辺からの農薬混入を防ぐような措置をしていなければ認定を受けることができません。

ただ、例えば春先になると中国の黄砂が西日本辺りまで飛んでくる現状を考えると、たかだか周辺の農地からの飛来農薬を防いだとしても不十分な気もします。中国で撒かれた農薬が黄砂とともに飛来している可能性も否定できない以上、外部からの農薬流入を完全に防ぐためには、密閉された施設で栽培することになります。そこまでこだわるのであれば、当然、換気のために窓を開けることもできない訳ですが。

農地に残留する農薬

2番目については、もっと深刻な問題かもしれません。

以前、無農薬と表示された野菜から基準値以上の残留農薬が検出された事件(※1)がありました。この生産組合は決して偽りの表示をしていたわけではなく、30年以上前にその土地で使用されていた農薬が実際に有機無農薬で栽培されていた野菜から検出されたのです。しかし、基準値以上の農薬が検出されたのは事実です。いったん市場に出回っていた野菜は自主回収となりました。

30年前の農薬が残留しているとなると、極端な言い方をすれば、一度でも農薬が使用された農地では残留農薬の呪縛から完全にフリーになることの出来る無農薬作物は作れないということになります。

いずれにしても、真面目に無農薬栽培された作物でも、場合によっては完全に農薬フリーな作物ではないかも知れないということを、生産者側も消費者側も理解しておかないといけないと思います。

無農薬栽培の表示方法

「無農薬」と書いて販売することが禁止されている理由をご理解いただけたでしょうか。無農薬とは書けないのですが、以下の様に、あくまでも栽培期間中に農薬を使っていない旨を伝達する表現は使用しても良いことになっています。

  • この野菜は農薬を使用せずに栽培しました
  • 栽培期間中農薬不使用

もうひとつの「誤解」

栽培期間中農薬不使用という表現は有機JASでも特別栽培(無農薬栽培)でも使用できる表現なのですが、一点、留意すべき点があります。特に特別栽培の場合なのですが、栽培期間中と言うのはあくまでも、該当する作物の栽培期間ということであり、その作物の前後については言及していないという点です。

有機JASの場合、最初の種まき前2年以上は農薬・化学肥料の使用はできないので、可能性的には少ないのですが、特別栽培にはこの前提条件が適用されないため、前作で農薬が使用されている可能性はあります。

具体的な例として、夏に葉タバコ、秋冬に人参という作付けで、葉タバコでは農薬をガンガン使っていても、裏作の人参を無農薬で栽培すれば特別栽培では「栽培期間中農薬不使用」として出荷できます(このやり方では有機JASの認定を受けることは出来ません)。確かに法律上は問題ないのですが、こういうやり方で特別栽培を申請する生産者のモラルは如何なものかと思いますけど。

減農薬栽培

「無農薬」と同じように、「減農薬」という表現も現在は使用してはいけないことになっています。コチラの理由は、

  • 削減の比較の対象となる基準が不明確
  • 削減割合が不明確
  • 何が削減されたのか不明確(農薬の使用回数なのか残留量なのか)

です。ちなみに、「無化学肥料」とか「減化学肥料」もNGです。

減農薬の問題点

主なものを2点ほど。

削減する基準が自治体によって違う

減農薬は慣行栽培に対して農薬の使用回数を50%以下に抑えた栽培のことなのですが、この慣行栽培の農薬使用回数は都道府県ごとに異なります。どういうことが起きるかというと、鳥取県では「なす」の栽培に減農薬基準で14.5回以下(慣行基準で29回)の農薬使用までが減農薬栽培に該当しますが、これが岡山県では11.5回(慣行基準で23回)となります。つまり14回の農薬使用で、鳥取県では減農薬なのですが、岡山県では減農薬にならないのです。

農薬を使うタイミングについて言及がない

減農薬の基準はあくまでも「回数」のみで、栽培期間中のどのタイミングで減らすのかを定めていません。農薬は栽培期間中に平均して散布する訳ではありません。極端な話し、10回散布を5回散布に減らすとして、その5回を栽培期間前半に行うのか、後半に行うか、で農薬の残留性は大きく異なります(作物にもよりますが、栽培期間の長い果菜類などは、実がついてから散布した方が可販率が上がる可能性が高いのですが、その分残留性は高くなります)。

減農薬は無意味

いずれにしても、「回数」を基準にして減農薬を定義することはナンセンスだと思います。というか、私は減農薬そのものが、あまり意味のないことに感じます。

私は農薬に関しては0か100かだと考えます。使うなら必要な分を使用すべきであるということです。農薬の使用量を50%に減らしたからと言って、安全性が50%高まるという、単純なものではないでしょう。それよりも、自治体ごとに異なる慣行基準に惑わされず、本当に効果のある必要最低限の回数を見極めて農薬を使用することの方が大切だと思います。中途半端に減らしてしまえば、かえって問題が出るのではないでしょうか。

無農薬栽培と慣行栽培では根本的に栽培方法を変えなくてはなりません。それは農作物を作るのか、健全な作物が育つ環境を作るのかの違いです。ですので、減農薬という半端な、どっち付かずの栽培をすることは私には考えられないのです。

(※1) 外部リンク:「道産かぼちゃからの残留農薬検出経過について」を参照してください。

2011.02.12